結果2-6:式内社数の多寡に影響すると思われる要因・・・・国力と式内社 米子(西伯耆)・山陰の古代史
式内社数の多寡に影響すると思われる要因としては以下の項目が考えられる。
    1:令制国の面積が小さい。 
    2:令制国の人口が少ない。
    3:郡数、郷数が少ない。
    4:経済力が弱い・・・・農業力
    5:都(中央)から令制国までの距離が遠い。  
    6:律令が定めた国力
    7:伯耆国の歴史的素地がない。
    8:その他 ・・・・政治色、人間(氏族)関係など(考察へ)

今まで検証した各項目は、いわば令制国の国力に相当するものと言える。
律令は諸国を大国(たいごく)・上国(じょうごく)・中国(ちゅうごく)・下国(げこく)の4等級に区分していた。
この区分は各国の国情、時勢により変動したとされるが、これら等級区分の基準はつまびらかではない。
しかし、当時の政府は何らかの基準を持って等級区分を行い、それが諸国の式内社数と関連するか否かの検証を試みる。

A:律令が定めた国力
   1:国力とは
   2:大国・上国・中国・下国と近国・中国・遠国の関係

B:律令が定めた国力と諸要因の関係
   1:国力と大国・上国・中国・下国の平均式内社数
   2:国力と大国・上国・中国・下国の平均面積
   3:国力と大国・上国・中国・下国の平均人口
   4:国力と大国・上国・中国・下国の平均郡数・平均郷数
   5:国力と大国・上国・中国・下国の平均田積
   6:国力と大国・上国・中国・下国までの距離
   7:結果まとめ

参考 : 延喜式と式内社  和名類聚抄と国・郡・郷  令制国

A:律令が定めた国力
1:国力とは
大国・上国・中国・下国
各国は大国(たいごく)・上国(じょうごく)・中国(ちゅうごく)・下国(げこく)の4等級に区分され、この各区分毎に適正な納税の軽重が決められた。
この区分は各国の国情、時勢により変動した。
また、国司の格や人員も(大国の守は従五位上だが上国の守は従六位下、中国・下国には介は置かないなど)これに基づいた。
しかし、これら等級区分の基準はつまびらかではなく、政治的色彩が含まれているとも言われている。


大国(13カ国)
大和国・河内国・伊勢国・武蔵国・上総国・下総国・常陸国・近江国・上野国・陸奥国・越前国・播磨国・肥後国

上国(35カ国)
山城国・摂津国・尾張国・三河国・遠江国・駿河国・甲斐国・相模国・美濃国・信濃国・下野国・出羽国・加賀国・越中国・越後国・丹波国・但馬国・因幡国・伯耆国・出雲国・美作国・備前国・備中国・備後国・安芸国・周防国・紀伊国・阿波国・讃岐国・伊予国・豊前国・豊後国・筑前国・筑後国・肥前国

中国(11カ国)
安房国・若狭国・能登国・佐渡国・丹後国・石見国・長門国・土佐国・日向国・大隅国・薩摩国

下国(9カ国)
和泉国・伊賀国・志摩国・伊豆国・飛騨国・隠岐国・淡路国・壱岐国・対馬国

参照:令制国(令制下の旧国)

近国・中国・遠国
律令制のもとで国家体制を整えていた古代の日本において、地方行政区画の一環として、畿内からの距離によって国を分けた。

近国
近い位置にある国が近国とされた(畿内の国は分類されない)。
中国
畿内からの距離が近くもなく遠くもない「中ぐらいの距離にある国」を意味する。
遠国
遠い位置にある国が遠国とされた。「近国」「中国」「遠国」の3分類の中で最も数が多い。


2:大国・上国・中国・下国と近国・中国・遠国の関係
  
畿  内
東海道
北陸道
東山道
山陰道
山陽道
南海道
西海道
大国 畿内 近国 中国 遠国
大和国 伊勢国 越前国 武蔵国
河内国 近江国 上総国
播磨国 下総国
常陸国
上野国
陸奥国
肥後国
13ヵ国 2ヵ国 3ヵ国 1ヵ国 7ヵ国

上国 畿内 近国 中国 遠国
山城国 尾張国 遠江国 相模国
摂津国 三河国 駿河国 下野国
美濃国 甲斐国 出羽国
備前国 信濃国 越後国
美作国 加賀国 安芸国
但馬国 越中国 周防国
因幡国 伯耆国 伊予国
丹波国 出雲国 筑前国
紀伊国 備中国 筑後国
備後国 豊前国
阿波国 豊後国
讃岐国 肥前国
35ヵ国 2ヵ国 9ヵ国 12ヵ国 12ヵ国

中国 畿内 近国 中国 遠国
若狭国 能登国 安房国
丹後国 佐渡国
長門国
石見国
土佐国
日向国
大隅国
薩摩国
11ヵ国 0ヵ国 2ヵ国 1ヵ国 8ヵ国

下国 畿内 近国 中国 遠国
和泉国 伊賀国 伊豆国 壱岐国
志摩国 飛騨国 対馬国
淡路国 隠岐国
9ヵ国 1ヵ国 3ヵ国 2ヵ国 3ヵ国



B:律令が定めた国力と諸要因の関係
1:国力と式内社数
国力と式内社数の関係
大国一ヵ国の平均式内社数は80.5社、以下同様に上国37.9社、中国21.1社、下国28.6社であった。
 

国力と式内社数の検定
各国の式内社数について、社数に統計学的な差があるか否かの検索をt検定で行った。
下表にP値(両側検定)を示す。
大国と中国、大国と下国の間にはP<0.05で有意差が有った。
他の国の式内社数の間に有意差は無かった。

t検定

P値
大国 上国 中国 下国
対 大国 0.0809 0.0197 0.0416
対 上国 0.0849 0.4207
対 中国 0.5065


2:国力と大国・上国・中国・下国の平均面積
国力と平均面積の関係
大国一ヵ国の平均面積は470.5方里、以下同様に上国266.5方里、中国211.5方里、下国85.7方里であった。
国の等級が下がるに従って、平均面積も減少傾向を示した。


国力と平均面積の検定
各国の平均面積について、面積に差があるか否かの検索をt検定で行った。
下表にP値(両側検定)を示す。
上国と下国の間にはP<0.001で有意差が有った。
国の等級が下がるに従って、平均面積も減少傾向を示す印象を受けたが、上国と下国の間以外に有意差は無かった。

t検定

P値
大国 上国 中国 下国
対 大国 0.3576 0.2503 0.0944
対 上国 0.4048 0.0029
対 下国 0.0575


3:国力と大国・上国・中国・下国の平均人口
国力と平均人口の関係
大国一ヵ国の平均面積は183523人、以下同様に上国99217人、中国38018人、下国18322人であった。
国の等級が下がるに従って、一ヵ国平均人口も減少傾向を示した。


国力と一ヵ国平均人口の検定
各国の平均人口について、人口に差があるか否かの検索をt検定で行った。
下表にP値(両側検定)を示す。
全ての国の間に間にはP<0.001で有意差が有った。
国の等級が下がるに従って、平均人口も有意に減少すると言える。

t検定

P値
大国 上国 中国 下国
対 大国 0.0067 0.0001 0.0000
対 上国 0.0000 0.0000
対 下国 0.0070


4:国力と郡数・郷数
国力と郡数・郷数の関係
大国一ヵ国の平均郡数は15、以下同様に上国9、中国8、下国3であった。
国の等級が下がるに従って、一ヵ国平均郡数も減少傾向を示した。

大国一ヵ国の平均郷数は102、以下同様に上国63、中国51、下国15であった。
国の等級が下がるに従って、一ヵ国平均郷数も減少傾向を示した。


国力と郡数・郷数の検定
諸国の平均郡数、平均郷数について、統計学的に差があるか否かの検索をt検定で行った。
下表にP値(両側検定)を示す。

郡数
大国と上国の郡数の間にはP<0.05で有意差が有った。
その他全ての国の郡数の間にはP<0.001で有意差が有った。
国の等級が下がるに従って、平均郡数も有意に減少すると言える。

郷数
上国と下国の間に有意差は無かったが、その他の全ての国の間にはP<0.001で有意差が有った。
国力と平均郡数の検定

t検定

P値
大国 上国 中国 下国
対 大国 0.0170 0.0009 0.0001
対 上国 0.0050 0.0000
対 下国 0.0070

国力と平均郷数の検定

t検定

P値
大国 上国 中国 下国
対 大国 0.00153 0.00001 0.00000
対 上国 0.00000 0.50414
対 下国 0.00001


5:国力と田積
国力と田積の関係
大国一ヵ国の平均田積は25314町、以下同様に上国99217町、中国38018町、下国18322町であった。
上国での田積が最も多く、国の等級と、一ヵ国平均田積の間に明らかな傾向は見いだせなかった。

国力と田積の検定
ての国の田積の間にはP<0.001で有意差が有った。
しかし、国の等級に従って田積が減少するとは言えなかった。

t検定

P値
大国 上国 中国 下国
対 大国 0.004763616 0.000081472 0.000023405
対 上国 0.000000017 0.000000001
対 中国 0.010956797


6:国力と距離
式内社数と令制国までの距離の関係は前項、5:都(中央)から令制国までの距離に示した。
式内社数は遠国ほど減少する傾向が認められた。

大国ほど近国が多い、あるいは下国ほど遠国が多いと言うような傾向は見いだせなっかた。



結果まとめ-
国力と諸要因との関係
国の等級と概ね一致していたのは人口、郡数・郷数であった。
以上の結果から、律令が定めた国力は、令制国の人口、郡・郷数によって規定されていた可能性があることが示唆された。
国力と平均郡数の検定
諸要因 大国 上国 中国 下国
式内社数 国の等級が下がるに従って、平均面積も減少傾向を示す印象を受けたが、上国と下国の間以外に有意差は無かった。
面積 国の等級が下がるに従って、平均面積も減少傾向を示す印象を受けたが、上国と下国の間以外に有意差は無かった。
人口 国の等級が下がるに従って、平均人口も有意に減少すると言える。
郡数・郷数 国の等級が下がるに従って、平均郡数・郷数ともに有意に減少すると言える。
田積 国の等級に従って田積が減少するとは言えなかった。
距離 国の等級遠近の関係は乱せなかった。


国力と式内社数の関係
大国と中国、大国と下国の間にはP<0.05で有意差が有った。
他の国の式内社数の間に有意差は無かった。
従って、律令が定めた国力と式内社数の間には明らかな関連は見いだせなかった。


参考資料-1
国力と諸要因表


参考資料-2
延喜式巻9・10 神名帳
「和名類聚抄郷名考證」 (吉川弘文堂 1966 池邊彌)
「和名類聚抄郡郷里駅驛名考證」 (吉川弘文堂 1981 池邊彌)



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