航空機搭乗と放射線測定
高度の高いところでは宇宙から降り注ぐ放射線(宇宙線)を地上にいる時よりも多く受けることになる。
海外旅行で飛行機に乗ると高度1万メートル以上の高度を飛行するので、地上の約150倍の宇宙線(海面0.03マイクロシーベルト/時、1万2千メートル5マイクロシーベルト/時)が降り注ぐ場所を通ることになる。
航空機と搭乗と放射線
高度による放射線量の変化
宇宙からの放射線
航空機高度での被ばくに寄与する放射線のうち、最も大きな割合を占めるのは中性子で、実効線量の半分以上が中性子によると評価されている。
電離成分については、陽子が1〜2割り、残りの3割程度を電子、光子、ミューオン、パイ粒子が占めると考えられている。
地上に住む我々が宇宙から受ける自然放射線は世界平均で年間0.39ミリシーベルトといったレベルである。
しかし、高度が高くなると宇宙からの放射線は空気という遮蔽物が減るために、1500mごとに約2倍になる。
国際線のジェット機では国内線より長時間高高度を飛行するために比較的強く放射を受ける。
通常の飛行高度は1万m程度なので、これらの値から計算してみれば、地上の約100−150倍もの放射線量に被曝することになる。


高度による放射線量の変化
  海水面      0m    0.03μSv/h
  高度     2000m    0.10μSv/h
          4000m    0.20μSv/h
         12000m    5.0μSv/h
         20000m   13.0μSv/h

例えば東京〜ニューヨーク間の往復では0.19ミリシーベルト多く放射線を受ける
普通に生活していても、自然界から1年に2.4ミリシーベルト(世界平均)の放射線を受けており、海外旅行で余計に受ける程度の放射線では健康上問題はないとされている。

航空機搭乗による放射線の影響
  国際線パイロットの場合
欧米路線を飛行する国際線航空機乗務員は、1年間に3mSvほどの被曝をする。
アジア路線やオーストラリア路線など低緯度地域を飛行する国際線航空機乗務員は、1年間に1.5mSvほどの被曝をする。
なお、日本より高緯度地域にある欧米諸国の国際線航空機乗務員は、1年間に5−6mSvほどの被曝をすることがわかっている。
   

妊婦の場合
東京〜ニューヨーク間の往復では0.19ミリシーベルト多く放射線を受ける
放射線業務従事者(妊娠中の女子に限る)が妊娠を知ったときから出産までにさらされてよい腹部表面の放射線の限度は2mSv。
これを適用すると、妊娠中の女性が東京〜ニューヨーク間の往復では10回が限度となる。



参考 : 国内線(米子空港−羽田空港)搭乗による放射線の変化
米子空港→羽田空港 (2011年8月6日)
  米子空港
当日の天候は晴れ。
米子空港駐車場でのDP802iによる測定値は0.09(μSv/h)であった。

保安検査
一般的に搭乗前の保安検査では、管電圧100Kvー140KvのX線透視装置が使われているという。
今回は、DP802iをこれに通過させた。
ここで購入後初めて、1回の通過で5.0μSvの高値が観察された。
器械が故障していないことが確認された瞬間であった。

搭乗中の放射線測定値
米子−羽田間の飛行時間は約80分。飛行高度は最高で10000m弱と思われる。
離陸からの時間と、快晴であったため窓から見える景色と飛行経路を勘案しておおよその測定地点を推測してみた。
離陸前後では機器の電源を切っていたためその時の測定値は不明である。

離陸約10分後
測定を開始すると、今までの計測では0.08−0.14μSv/hの間しか反応しなかったが、やがて0.20μSv/hを示していた。

離陸約20分から着陸まで
離陸20分後、おそらく兵庫県浜坂町上空くらいから0.50μSv/hをこえた。
離陸30分後、おそらく若狭湾上空で最高値1.96μSv/hを記録した。
その後名古屋上空くらいで一度測定値は低下したが、浜松上空くらいで再び高値1.88μSv/hを示した。
以後、東京羽田空港に近づくにつれ測定値は低下した。
電子機器の電源を切れとのアナウンスにより、測定を終了した。



 

羽田空港→米子空港 (2011年8月7日)
  羽田空港
天候は快晴、空港前駐車場でのDP802iによる測定値は0.10(μSv/h)であった。

保安検査
米子空港の保安検査と同様に、5μSvの高値が観察された。

搭乗中の放射線測定値
離陸からの時間と、快晴であったため窓から見える景色と飛行経路を勘案しておおよその測定地点を推測してみた。
離陸前後では機器の電源を切っていたためその時の測定値は不明である。 

離陸約10分後
測定を開始すると、すでに0.50μSv/hを示していた。

離陸約20分から着陸まで
測定値は往路より高い2.62μSv/hを示した。
その後、往路と同様に名古屋上空付近で測定値は減少したが、若狭湾上空で再び高値2.37μSv/hを記録した。
全般的に、復路の方が往路より高い数値が記録された。
その後測定値は低下し、大山が見えてくる頃に計測を終わった。





参考資料
「知っておきたい放射能の基礎知識」 (株 ソフトバンククリエイティブ 2011 斉藤勝裕)
「放射線の影響が分かる本」 (財団法人放射線影響協会)
「核災害に対する放射線防護」 (医療科学社 2005 高田純)
「原発事故緊急対策マニュアル」 (合同出版 2011)


「新編教養物理学」 (学術図書出版社 1985 原島鮮 )
「チャート式シリーズ 新物理II」 (数研出版 1978 力武常次)

「歯科X線撮影における件数および集団線量の推定 1989年」
   (歯科放射線 1991;31.285−295.丸山隆司,岩井一男,馬瀬直通,他)

「X 線診断による臓器・組織線量,実効線量および集団実効線量」 
   (RADIOISOTOPES.1996;45.761−773 丸山隆司,岩井一男,西澤かな枝,他)

Wikipedia 「放射線障害」