【目的】
訪問歯科診療の現状把握を行うために、2000年4月から2004年8月までの4年5ヶ月の間に鳥取県西部地区で実施された訪問歯科診療についてその実態を調査した。
【調査対象および結果】
報告総数は246件で、内訳は男性101例、女性141例、不明4例の246例で、平均年齢は78.7歳であった
(図1)
。
訪問診療対象者の介護度が高くなるほど、診療件数が増加する傾向にあった
(図2)
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また、介護者の平均年齢は64.7歳で、その高齢化が認められた。介護者の多くは女性で、7割強を占めていた
(図3)
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訪問診療対象者の基礎疾患では、脳血管障害、神経変性などの中枢神経疾患が圧倒的に多く、他の疾患には大きな差は無かった
(図4)
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要介護度と基礎疾患の関係においては、明かな傾向は認められなかった
(図5)
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主訴は義歯の不具合がもとっとも多く、歯肉の不調、歯牙の痛みが続いた
(図6)
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術前状態の評価として、歯磨き、義歯の取り扱い、含嗽の可否、食事、嚥下の状況について調査した。
歯磨き状況については、自立して歯磨きが出来るものは全体の30%以下で、多くは介助が必要であった
(図7)
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義歯の取り扱いについても、自立して着脱可能なものは40%程度であった
(図8)
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含嗽の状況では、良好に含嗽可能なものが65%であった
(図9)
食事の状況については、自立して摂食可能なものは50%以下であり
(図10)
、何らかの嚥下障害を有すると思われるものが約30%存在した
(図11)
。
次に、これらの術前状態と要介度との関係を検索した。
要介護度と主訴の関係では、すべての介護度において義歯の不具合が最も多く、介護度が高くなるに従って歯肉の不調、口腔清掃困難が増加した。また嚥下障害に関する主訴は介護度5度にのみ認められた
(図12)
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要介護度別にみた歯磨き状況では、介護度が高くなるにつれて介助の必要が生じていた。
介護度5のものでは80%近くが全介助を要した
(図13)
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義歯の着脱についても介護度が高くなるに従って介助が必要になっていた。介護度2以上になると着脱の介助の必要が高まり、要介護度5では70%近くが介助を要していた
(図14)
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含嗽状況については、要介護度3までは一部介助がわずかであったが、介護度4以上になると介助の必要性が急増していた
(図15)
。
食事状況については、要介護度2までは一部介助がわずかであったが、介護度3以上で介助の必要が急増していた
(図16)
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要介護度別にみた嚥下状態では、介護度1から何らかの嚥下障害が認められた
(図17)
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訪問歯科衛生指導は203例に対し実施されていた
(図18)
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【考察】
今回提出された報告書は246例であったが、実際に行われている訪問歯科診療はこれを大きく上回る実施件数が予想される。
報告書はかなり簡略化を図って作製したが、訪問診療自体が時間と労力を要するのに加え、カルテ記載に要求される項目も複雑化する傾向にあることが、報告書提出協力を阻害している要因であると推測された。
訪問診療の対象者は何らかの基礎疾患を有しているわけであるが、その内訳は脳出血、脳梗塞に代表される中枢神経疾患が顕著に多かった。
これらの疾患は、中枢・体幹・四肢機能の障害を起こすのみならず、口腔領域においても発語障害、摂食・嚥下障害などを併発しやすい。
加えて出血傾向を生じる薬剤の服用も予想され、歯科医側にも局所的、全身的な対応が要求されるであろうから、それに対する情報提供も当委員会の役割であると認識する次第である。
今回の検索で、要介護度3以上になると、歯科的介助を必要とする事例が半数以上にのぼることが判明した。
この時点で早急に歯科的対応が為されれば、局所的のみならず全身的にも好結果がもたらされることが近年報告されるようになった。
すなわち、咬合機能の回復がもたらす摂食機能の改善や、歯科治療、口腔ケアによる誤嚥性肺炎の予防などである。
しかも、より介護度の低い時点での対応がQOLの維持・向上や介護者の負担軽減につながるものと考えられる。
今回の検索では、主に術前状態の評価にとどまってしまったということを否めない。
今後は、要介護者に訪問歯科診療を通して狭義の歯科治療や、口腔リハビリテーションの実施を行うことが、食支援や気道感染予防をより効果的に実現することを提示出来れば幸いであると考える。
そのためにも、治療後の歯科衛生士による訪問歯科衛生指導の評価などを再考して、今後の課題としたい。
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『鳥取県西部地域における訪問歯科診療の実態
』
鳥取県公衆衛生学会
2005
年
鳥取県西部歯科医師会 土井教子 八尾正己